モード&カルチャーWebマガジン「SEIReN」にて、民話や伝説をモチーフに、女性のセンシュアルをテーマにした連載をしています。
その第3回が公開になりました。今回は「金太郎の母」。
http://seiren-tokyo.com/2017/10/04/oumagatoki_vol3/
金太郎って誰から生れたんだっけ?
そもそも金太郎の話ってどんな話?
熊と相撲とっただけ?
…って思う人は多いと思うんですが、これ実は、掘り下げると日本という国の成り立ちに関わる非常に面白い話です。
個人的に盛り上がる話なので以下、解説を付記いたします。リンク先と併せてご覧ください↓
金太郎といえば「足柄山の金太郎」。
足柄山で年老いた母親と暮らす金太郎は、熊と相撲を取ったりして暮らしていたが、ある日やってきた武士(源頼光)にスカウトされて都へいき、武士・坂田金時として出世する――それが金太郎のプロットです。
童謡などでも有名になったこの足柄山は神奈川と静岡の県境にある山だというのが一般的です。
ですが、実は「うちこそが金太郎の里である」という場所は全国に20か所くらいあります。
諸説あるんですが、今回はその中でも、近江の坂田郡(滋賀県長浜市)を採用しました。
ここを金太郎の所縁の地だとする説は以下のブログで詳しく紹介されています。
坂田金時の謎(前編)~足柄山の金太郎は嘘だった!~
http://on-linetrpgsite.sakura.ne.jp/column/post_199.html
阪田の地と製鉄と「まさかり」
この辺りは鍛冶製鉄で栄えた古代の豪族・息長(そくちょう)氏の支配する地でした。
ヤマタノオロチの伝承で、オロチの尾から草薙の剣が出てくるのは、その地の古い神を殺し、製鉄業の民を大和朝廷が支配下に置いたことのメタファー、とする説があります。
すなわち、息長氏も元々、そうした先住民族か、または渡来人系だったのではないかと思われます。いずれにしろ、大和朝廷からは外様の民族です。
で、金太郎。
金太郎が担いでいたとされる「鉞(まさかり)」、これ実は息長氏の象徴的なものでもあるんです。
どうも、雷神信仰を表すものだったようなんですね。
伝説によれば、金太郎は山に棲む「赤龍」と「山姥」の間に生まれた子どもだといいます。
赤龍というのはまさに、雷神のことであったとされています。
山姥と「まつろわぬ民」
そして山姥。
山に棲んで人を食べる老婆、という連想をしますが、「姥」というのは別にお婆さんだけを指すものでなく、若い女性も含むものでした。
これは恐らく、山間で暮らす人々が伝説化したものなのではないかと考えられます。
山に棲む謎の女性――山に危険が多く、異界や魔界でもあった時代、山で見かけた女性を人外のものとして畏れ、「取って喰われる」「助けてくれる」という伝説が生まれたのも無理からぬことでしょう。
しかし彼ら「山の民」は、元来妖怪でもなんでもなく、土地に定住せず、山野を渡りあるいて暮らす民だったものと考えられます。
それは同時に、大和朝廷の律令支配から逃れた「まつろわぬ民」として、時の政府から取り締まりにあい、時には山賊や鬼として討伐される存在だったのです。
先住民族と金太郎伝説
大和朝廷に仕えず、山に暮らす「まつろわぬ民」――彼らの多くは先住民族の文化を伝えるものだったのではないかと思われます。迫害に遭い、山へ逃れた人々も多かったはずです。
そうやって考えると、「鍛冶製鉄の神」であり、民間信仰の対象である雷神=赤龍と、「山の民」である山姥から生まれた金太郎の物語というのは、つまり山人の子ども・朝廷から迫害される民の子が、都へ行って武士として出世した物語である、という風に考えられます。
一見、ヤマもオチもないような金太郎の物語も、元々は熱い出世譚であり、差別の構造を内包するものだったのです。
そして金太郎は都へ登り、坂田金時として頼光四天王のひとりと数えられ、大江山の鬼・酒呑童子を討伐したことで伝説に名を残します。
坂田金時は実在の人物。
大江山の酒呑童子退治も、山賊や「まつろわぬ民」を討伐したことが伝説化したのだろうと考えられています。
恐らく、酒呑童子を退治する源頼光四天王の物語と金太郎の物語は、元々別々に伝えられたのではないでしょうか。
朝廷に仇なす「まつろわぬ民」の中でも、武闘派の強力な一族がいた。
それを討伐したのが、同じ「山の民」の出身である金太郎の出世した姿――穿った見方をすれば、大和朝廷の支配、少数民族の恭順を示すプロパガンダとしての物語が、金太郎と坂田金時、酒呑童子だった――それが「金太郎伝説」の真相ではないか――私はそう結論づけました。
単一民族の国と一般的に思われる日本ですが、民話や伝承を紐解けば、決してそうとも言えないことがわかります。
歴史の闇に埋もれた「まつろわぬ民」の生きざま――「大人の都合」で語られた残酷な歴史の一側面が、「金太郎」というほのぼのとした動揺として語られているのも、皮肉なひとつのストーリーです。